9つの立国構想

CMF対談


   夢対談 時代の曲がり角


約50年で日本社会はどう変わったか
木原

本日はありがとうございます。早速ですが、ペマ先生はチベットのご出身で、来日されて約半世紀。国際政治学という専門の立場から見て、今の日本をどうお感じになりますか?


ペマ・ギャルポ

社会全体のモラルが非常に低下していますね。私が来日した頃は、どの家も鍵をかけなくても安心して外出できる社会でしたが、今では2重3重に鍵をしても犯罪が起きています。


特に、核家族的意識が非常に強くなりました。今は「大学を出て結婚をして、子供が出来て家族が出来た」という概念です。しかし、結婚してもしなくても、もともとみんな家族はいるわけです。


お正月やお盆には帰る場所がありましたが、今はある意味故郷がないという、とても寂しい社会になっています。


木原
夢対談 時代の曲がり角

私も日本の家族の良さが失われつつあることに危機感を覚え、昭和57年に、女性と家族のための教材を故小野日出男先生と開発(現LRA)しました。


しかし、高度成長期のまっただ中で、ほとんど売れませんでしたが、今になって日の目を見ています。日本の家族は理想の家族像があったと思っています。


ペマ・ギャルポ

本来の日本の力は、世界から見ると家族意識の絆、例えば「同じ釜の飯を食う」とか同世代・同期生とか、先輩・後輩の人間関係などで、しっかりした社会を支えるものが、日本に来た頃にありましたが、今無くなっており残念と思っています。


木原

何が日本を変えたのでしょうか。


ペマ・ギャルポ

一つは間違いなくアメリカの占領政策で、僅か7年間で日本を骨抜きにしました。色々なカタカナ文字が入ったり、かつては豊富だった国語を簡略化することで、母国語の中身が段々と貧弱になってきています。


日本が2度と、東アジアの覇権を狙うような国にならないように弱体化させ、アメリカにとって負担にならない形で、ある意味で経済発展などを狙ってたんですね。


木原

私自身も経営コンサルタントを経て、縁あって僧籍となり、多くの方々の人生相談を受けているうちに、このままでは日本はダメになると、国づくり人づくり運動を発起したのですが、家族そのものが崩壊し、人間関係の希薄、そして愛国心とか、また、既存の宗教ではなく、感謝するとか命あるものを大切にするという宗教性となると、本当にダメな国に成り下がりました。


ペマ・ギャルポ

例えば最近、内閣府がブータンの国民総幸福度(GNH)を各地方行政の単位で応用しようとされてますが、9つの要素や幸福度を計る為の条件という事だけに気を取られているように見えます。


簡単に言えば、人の幸せには、衣食住と医療は最低限度必要ですが、人間にはそれ以外の精神的な要素があるという前提があります。


幸せになるために、苦しみと苦しみの原因をきちんと追究する。これがお釈迦様の仰る「苦」です。それを無くすることが幸せにつながる、という仏教の教えが、少なくともブータンの幸福度の背景にあります。このような哲学・思想を理解しなければ、技術論だけでは上手くいかないと思います。


夢対談 時代の曲がり角
木原

日本の宗教観は何が間違っていると思われますか?


ペマ・ギャルポ

戦後の政教分離の原則の履き違えをしたのです。政教分離の原則は、宗教を排除するという事ではなく、むしろあらゆる宗教を同じ様に尊敬し重視することです。ただし国家が特別の宗教を国民に押し付けない、贔屓しないという事だったと思います。


アメリカ大統領就任式では、演説の最後に「皆さんに神のご加護がありますように」と言いますが、日本では公の場で言うと反対する人がいます。


マハトマ・ガンジーが「宗教的価値観が入ってない道徳は無い」「道徳のない社会は動物の社会と変わらない」と言っていますが、宗教的・精神的な要素を、考え直す必要があるのではないかと思います。


木原

同感です。私も様々な方々とお会いして個人的にお話をさせていただく時は宗教性には同意されても、公の場でそれを言われることはありません。しかし、そこの領域に踏み込まなければ日本の再生はないと思っています。


また日本は言論の自由は保障されていますが、規制やタブー視されているものがあり、公の場で本音が言えなかったり意図が変わっている場合もある。


閣議決定した特定秘密保護法も、もちろん国益を損なうような情報はあると思いますが、大きな力によって利権を有する人たちのための情報操作の道具という気がしてなりません。



桐蔭横浜大学大学院 教授/ブータン王国首相顧問 ペマ・ギャルポ