9つの立国構想

CMF対談


   夢対談 時代の曲がり角


出会いが人生を大きく変えた
木原

本日はお忙しいところ、ありがとうございます。菅沼先生は東京大学を卒業され、公安調査庁で情報収集をされていたご経験をお持ちですが、まずは、仕事の原点から聞かせてください。


菅沼

出会いが私の人生を変えました。所属していたボート部の先輩のお陰で、超優良企業の大繊維会社に就職が決まった昭和34年の10月頃でした。後輩の為に寄付を集めようと、ボート部の先輩方を訪ねて住宅公団に行った時、偶然にも公安調査庁が同じビルに入っていました。


夢対談 時代の曲がり角

当時、公安調査庁は破防法反対運動が活発な時期で、東大でも憲法違反の役所と教えられていましたが、具体的に何をする所か全く知りませんでした。当時この役所のナンバー2はボート部の先輩でした。ついでにということで、この先輩を訪問したのです。


そこで会わせていただいた総務部の資料課長から、当時は最大の敵国だったソ連にいた経験など、色々と聞かせていただきました。対ソ情報活動です。この方は山口県出身の元陸軍大佐で、甲谷悦雄という方です。


その時私は、「何て面白い仕事だろう、これこそ男のやる仕事だ」と確信し、公安調査庁に入ることを決断しました。企業への就職はお金儲けの範囲ですが、この仕事は国のためになると。また、当時60年安保の時代で、これを何とかしなければという思いもありました。 就職先を断る時には、多方面にご迷惑をおかけしましたが、本当に運命というものは分からないもので、あの時寄付を集めようという行動も、自分が選んで行ったわけではないですし。何か人間を超えたもの、やはりその存在があると思います。


木原

まさに、一期一会の出会いだったわけですね。しかし、危険な仕事ではないですか?


菅沼

冷戦のまっただ中の頃、ベルリンの壁が出来た直後のドイツに派遣されました。大戦中、日本はドイツと同盟関係にあり、協力して対ソ情報活動をやっていましたが、戦後は両国ともアメリカの占領下で、アメリカの手先として動いてきました。しかし、ドイツと日本が共に独立し、独自にソ連の情報を交換することになったからです。


夢対談 時代の曲がり角

フランクフルトの空港に降り立つと米軍の戦車が何百台も走っており緊張していました。第三次世界大戦の前夜という状況です。うかうかしていると、いつ死ぬかわからない状況でした。


私はその頃、国際情勢をまだ何も知りませんでしたから、ドイツに向かう時、長官が靖国神社に国旗を供えて祈願され持って行くよう言われた意味が、ここでやっと分かったのです。


命を捨てよとまでは言われませんでしたが、目的を達成するためには「死ぬつもりで勉強も仕事もしなければならないのだ」と肝に銘じました。そしてここから先は、情報活動という陰の仕事で日本の安全の支えになり、世の中の表に出るのを一切止めようと決意しましたよ。


木原

本当に大切なことで、今の日本社会にはそれが欠けている。私も最初に就職した会社では、死にものぐるいで仕事や問題に取り組むことをたたき込まれ、「血の小便」も経験させていただきました。このことが今の私の人生の基礎にあります。


最近は「楽しんで…」と言われます。楽しむことは悪いことではありませんが、国を挙げて代表が行くオリンピックなどは、何か違う気がしますよ。


菅沼

スポーツは負けても明日があり、次があります。残念ですが、今、例えば柔道はスポーツになっていますね。


本来武道は道を極める文化であり、「柔道というのは命をかけて戦う武道」で「負ければ死ぬ」わけです。


だから、相手がどんなに大きくて強くても、必死で立ち向かわなければなりません。これは国防でも仕事でも全く同じことが言えます。


日本を取り巻く安全保障の今
木原

菅沼先生は公安調査庁におられましたが、専門家の目から見て、日本を取り巻く今の安全保障について、少しお聞かせください。


菅沼

防衛省の『防衛白書』や新聞にもいろいろ書かれていますが、焦点の一つに中国の台頭があります。


夢対談 時代の曲がり角

経済成長をしてきた中国は2011年、日本を抜いて世界第2位の経済大国になりました。これを背景に軍事力をさらに増強してきました。


また、習近平が中国の最高指導者に就任した時、国民の共有すべき夢である「中華民族の偉大な復興」に取り組むと言いましたが、これは、世界第一位の強国だった明・清の時代と同じ中国にしたいという意味です。


では、その偉大な明・清が、なぜ欧米の列強にやられたのか。それは、海軍力がなかったからということで、中華民族の復興の一つに海洋強国になることも挙げられます。


木原

中国は日本の尖閣諸島をはじめ、アジア諸国とも領土をめぐり、問題を起こしていますね。


菅沼

中国の海洋における覇権主義的行動は、確かに世界各国の不安要素ですが、これは日本という目線であって、世界に眼を向けてみると、様相が違ってくるのです。


夢対談 時代の曲がり角

エジプトでは、クーデターにより選挙で選ばれた大統領が降ろされ、また軍が権力を握りました。これは民主主義国家ではあってはならないことなのですが、この混乱は当分続くと思われます。


エジプト情勢で、今一番注目されているのは、世界の商船が通行しているスエズ運河です。実は、スエズ運河の周辺は、エジプト政府から抑圧されてきたムスリム同胞団の故郷で、もし彼らがスエズ運河を通る船を攻撃することになると、タンカーや商船は通れなくなり、喜望峰を大回りすることになりますが、これは相当なコスト高になります。


このように今回のエジプトのクーデター騒ぎは、世界経済に甚大な影響と、解決の仕方によっては、ものすごい危険性をはらんでいます。


またアフリカには今、多くの中国企業が入り開発を進めていますが、今、イスラム原理主義の人たちが中国に反感を持つようになっています。


木原

このような争い事の背景には、宗教が深く関わることが多いのですが、キリスト教・ユダヤ教・儒教・イスラム教の戦いではないのですか。


菅沼

真相は中国の西方、新疆ウイグル自治区で漢民族とウイグル族の争いがありますね。清朝の時代に取られたウイグル族の土地には、今漢民族の人口が増えていますが、石油が出るので、ウイグル人が色々な形で抵抗を始めるようになりました。


中国の隣国カザフスタンは、ウイグルとは、民族的に複雑で仲が悪いのですが、カザフは中国と結びつきウイグルとも争っています。


しかし、アフガニスタン(タリバン)も中国の隣国ですが、タリバンはウイグルと繋がりがあります。


つまり、イスラム教徒であるウイグルを中国人が虐めることが、中央アジアのスンニ派系イスラム教徒の反感をかい、アフリカのイスラム反乱分子の反感までかっている、これは中国がイスラム教徒を敵にするという意味です。国内に多くのイスラム教徒をかかえている中国にとって、これは大変なことなのです。


木原

こういう繋がりは、報道では見えてきません。アメリカ・ロシアはどう動こうとしているのですか?


菅沼

ロシアも今、ソチオリンピック開催を前に、イスラム過激派との争いやチェチェン問題を抱えています。


夢対談 時代の曲がり角

アメリカは財政赤字が大きく、一日も早くイラクやアフガニスタンから撤退したいので、東アジアへのシフトを口実に日本や韓国に肩代わりさせようとしているわけです。


しかし、中東ではイランは核兵器を止めないと言っているし、シリアにはイスラエルがミサイルを撃ち込むなど、情勢は益々先鋭化しており、イスラム過激派勢力が全世界に拡散し泥沼になりかねません。


これは、世界の安全保障を脅かす最大の問題です。日本が目先の東アジアの尖閣だけ見ているのは、近視眼的すぎると言えます。



アジア社会経済開発協力会 会長 菅沼光弘