[人間づくり]総合人間教育学の普及と援助

人間づくり対談




株式会社バイオシード代表取締役
イラン国立ジュンディシャプール大学農学部卒業・文部省招聘留学生として来日・大阪外国語大学日本語科卒業・広島大学大学院修士課程(農学部研究科水産学専攻)卒業・東京大学大学院博士課程卒業。

<主な研究論文>
『フェノールが魚類におよぼす影響に関する基礎研究』『キンギョの生殖周期とその人口制御に関する研究』 



木原
今日はお忙しいところありがとうございます。 来日されて約30年だそうですが、どんなきっかけで日本には来られたのですか?

来日のきっかけ
ラザニ
イランでは、卒業したら軍隊に入るのですが、単純に行きたくなかったんです(笑)。大学で一番になれば奨学金で外国に行けるチャンスがあるということで頑張りました。 丁度チャンバラが流行ってまして、サムライにも興味があり、日本を選びました。

木原
日本人としては嬉しいですね。武士道的というか、日本の柔道とか合気道を、外国の方は勉強されてるじゃないですか。ケネディ元大統領が武士道を読んだり、プーチン大統領も柔道をするように、そういう点では価値があるのですか?

教育現場の現状
ラザニ
そうですね。 ところが残念なことに来日して、それを大事にしている人達もいますが、全体的には伝わって来なかった。 日本の精神は、段々段々薄れてきていると思います。

先日、ある都立高校に行きましたが、学生の態度の悪さ、先生の弱さ・説得力のなさが凄く気になりました。 授業中、悪さをしても自分の自由。子供たちは小学校から変な「自由」を覚えている。注意すればPTAが出てもめる、クビになる場合もある。 だから、先生も見逃すしかない。 ある意味、可哀相ですよ。また、真剣に勉強したい子にとっては悪影響ですよ。

もちろん自由があれば良いことも色々ありますが、本当の自由の意味も理解させないといけないですね。 例えば、20年前に週刊誌界はヌードの写真を見せなかった。法律の罰則がすごかった。

木原
そうですね、子供の性犯罪とかも論議されているようですが、まだ根本的な原因には一つもメスを入れていないですね。

ラザニ
西洋だと禁止です。見たいという子供の「自由」とかではない。子供は判断能力がないですし教育に悪いですから。 男女の関係は、本当は凄く大事に見せないといけない事です。

木原
日本も核家族化して、先人の智慧が伝わらない、躾をする人がいなくなったというのは事実だと思うんです。 渋谷の方では、生活の場が外にあって、たまに家に帰るというような若者も増えていると。これは家庭教育の問題ですね。

ところが、京都のある高校は、昔はいわゆる不良の多いことで有名だったのですが、今では東大に合格者を出す優秀な学校になっているんです。それは、教師に組合活動をさせずに教育に目を向けさせたからなんです。
日本は、江戸時代には寺子屋とか、志のある人が塾を開いて教育の場を作っていた。また、お寺が善悪を教える心の教育をしていた歴史があるんですよ。 今の学校制度の中で、それを強力に推進するためには、よほど信念を持った校長先生とか教育者が、生まれないといけないです。

ラザニ
全体的には社会意識を変えることが必要だと思うんですが、今の学校は、PTAが過剰介入だと思います。学校も先生もやり方があるんですから。

木原
PTAも存在価値としてはあるのでしょうが、逆に教育をする環境を壊している場合もあるようにも見えますね。

ラザニ
今の先生達はちょっと叩いてもクビになりますよ。そしたら子供の言うとおりにするしかないんですよ。それでは子供は育ちません。 母親も子供を叩いたりすることがある。それは愛の鞭です。今の子供たちは、無意識に愛の鞭を欲しがっていると思います。

木原
私も、中学校の頃に竹の定規でよく頭をパカーンと叩かれたのですが、何も文句を言わなかったのは、愛の鞭だと子供ながらに感じていたからです。親も文句を言わなかった。

ただ体罰をする側も、近年戸塚ヨットスクールの問題が話題になったように、指導者の教育も大切だと思います。 私は、無認可でも良いから幼児教育をそろそろ立ち上げたいと思っています。人間の原点からもう一度教育をし直さないといけないと。

今のように自由や権利だけを追いかけるのではなくて、義務も必要ですし本当の意味での修身を復活して人間教育をしないといけない。 そうなると、私も真言密教の僧侶ですが、宗教界もしっかりしなければと思いますし、日本の神道・伝統仏教も、積極的に踏み込んで欲しいと思っています。

ラザニ
宗教的には、今の日本人はほとんど無宗教ですよね。だから逆に、モラルがどんどん低下している。楽に楽にやりたいようにやって、気づいたら完全にドロドロになっているという感じです。

宗教は、平和と平等とより良い生活の目的があると、イスラム教もキリスト教も仏教も言っています。それを実行していないのは、人間なんですが。 でも本当の宗教をすれば、社会はもっとすごい社会になるのではないかなと思いますよ。 先生には幼稚園を是非作っていただきたい。

木原
文部科学省とか日教組の問題、また戦後のGHQの政策だとか色々と言われていますが、日本の教育は、なぜこんなに荒廃して、どこに根本的な原因があると思いますか?

日本の教育の荒廃はなぜ起こったか
ラザニ
欧米化し過ぎていますね。欧米にも良いところはたくさんありますが、今の日本は、悪い所だけを持ってきて、日本の良いものをどんどん失くしているんですよ。例えば、礼儀とか食生活とか。 犯罪も増えており、対策に法律ができて罰金となるのですが、そうではなくて原因を直さなければ根本解決しないですよ。

日本の教育も同じ感じがします。例えばゆとり教育で国立と公立は土曜日休みになった。休むことは悪いことではないけれど、お金のある人は土曜日は休みじゃない私立に行き、勉強もどんどん進んで、お金のない人は勉強が出来ない環境になっている。

木原
教育の二極化はもう現実ですね。教育の機会均等がおかしくなるんですね。

ラザニ
インドや中国・韓国を見て下さい。凄く教育に力を入れていますよ。今の日本は、やりたい人はやって、やらない人はやらない。 新社会人も、会社はどうでもいい、楽してお金儲けしたい。注意するとすぐ辞める。20年前の日本は会社に入るということは、会社と結婚するという事だったんですよ。

木原
そうなんです。教育も会社も修身だったんです。

ラザニ
日本は技術力で栄えた国です。今朝も素晴らしい新技術の開発が新聞に出ていました。しかし、それを開発している人は40代~60代の人たちです。 今の20代~40代の人達が、同じようにできるかというと疑問ですね。それは、受けてきた教育や我慢するレベルも努力する度合いも違います。 私が一番言いたいのは、勤勉で礼儀正しい本来の日本人を取り戻して欲しいということですよ。

木原
今言われている格差社会、これがもう一つ上乗せされると、ほんとにもう大変な日本の社会になりますよ。

ラザニ
昔、アメリカで1ドルで人を殺すという事がよくありましたが、最近は全然聞きません。日本では最近、お金のために老人を殺したという事件がありました。そうするとアメリカの1ドルと同じ事です。これは、教育に問題があると思うんですよ。 私は教育は幼稚園から始まると考えています。

木原
今、教育基本法の問題や愛国心の問題も論議されていますが、それは単純に戦争をするという愛国心とは全く違います。 国を本当に愛するという意味での、愛国心だと思うんですね。60年前に軍部が悪用したかもしれませんが、日本 の一万年以上の歴史を見ても、本来誰もが自然の摂理の中で愛するということだと私は思うのですが。

ラザニ
今の日本は、本当に自国のことを思っていないですよ。例えば、竹島問題でも韓国は市民が主張して運動していますが、日本はどうでもいいという感じがします。

木原
戦後60年。危機感も無く平和呆けしているように感じます。私も講演をして回る機会が多いのですが、日本という国を意識している人達が本当に少ないです。 それともう一つ気になるのは、今社会を動かしている経済ですね。欧米型の経済学が教育を逆に蝕んでいるというように感じるんですが。教育も商業主義になってしまっています。

経済と教育
ラザニ
経済と教育は、関係しますよね。儲けるのも良いのですが、人を傷つけたり、社会のルールに反する事をやったらいけないという事を、どういう風に経営者やお金持ちに、理解させるかということが、ポイントになるかと思います。

木原
環境も社会も壊してしまってもお金が第一というグローバルな世界の経済の流れがありますよね。勝たなきゃいけないというような、経済学そのものがおかしいという論理も持ってるんですけど、そういう点では、イスラムの場合、経済に関しては、しっかりした考え方がありますよね。

経済活動は悪いわけではないのですが、日本の昔の経済人は、商道というかそういう精神はしっかりしていた。このままではいけないと、私も、コスミカリズムマネジメントという日本文明・文化に基づく経営法を、今復活させようと始めているんです。 先生から見て日本の今後の可能性をどう感じられていますか?


これからの日本の可能性
ラザニ
可能性はありますよ。日本には、根があるから難しいことではない、と私は考えます。
例えば、50代の親御さんたち、70代のおじいちゃんたちはいい素質はみんな持っているんですよ。間違ってる所が決まっているんですから、そこだけ変えればいいんですよ。
例えば、電車に乗って10年前と比較して、何が違ってきたかを考えてみてください。

木原
新幹線に乗っていて、子供が騒ぐことがありますが、今の親は止めないですね。 逆に注意する方が、変に見られてしまう。昔は泣きすぎるとデッキに出て、あやすような事をしていました。

ラザニ
その赤ちゃんが将来どうなるかということですよね。
また、以前は電車に乗っている時、雑誌とか新聞を立っていても読んでる。それを見て凄く感動したことがあるんですよ。近は少なくなっていますし、周りに女性もいるのに、平気で如何わしい写真をみている人もいる。少しは気を使って恥を知って欲しいですね。

木原
日本人は勤勉さとか恥の文化とか、そういうものを大事にして生きてきた所があったんですが・・・・最近、薄れて来ているということですかね。私も日本人ですから、日本人の悪いところばかり言うのは、何とも言えない気持ちなのですが・・・・

ラザニ
先生は、どうにかして直したいって、真剣にされているからでしょう。

木原
日本人は外国から輸入されたものを、日本人にふさわしいように日本ナイズ化してきたんですが、最近はその座標軸を失って、何でもかんでも入れ替えてしまって、日本の良さとか日本の伝統とかいうものを捨てている。 今の日本は、欧米の論理を持ってくるとエリートで、日本の本来の良いものを出すと古いという風潮もどこかにあるんです。

日本の教育に還れ
ラザニ
日本にはいい所が一杯ありますよ、どこの国も同じだと思いますが、その国の環境の中で人は育つんです。よその国のものを持ってくるのではなくて、日本に合う基準で育つしかないと、私は思いますから。

日本人はもともと日本人という事に、凄い誇りを持つところがあったんです。今はどうなっていますか、誇りは段々少なくなっているでしょう。それを取り戻す為には、まず第一は教育ですね。 日本人すべての人が、政治家は政治家として、先生は先生としてそれぞれの立場で、国を想い自分の仕事をまっとうしてくださいということですよ。

例えば昔の政治家は、政治の中で年寄りを大事にしてきたんですよ。昔の政治家はカバン持ちから始まって経験を積んで志を持って日本の将来のことを考えていましたよね。 今は長老がいなくなって、実践経験が少ない頭でっかちの若い人達だけで走って問題を起こしている。

木原
国の舵をとっているわけですから、非常に恐いところですよね。
料理の鉄人と言われている中村孝明先生と対談させていただいた時、和食の世界では20年近い修行をして初めて一人前として認められる。暖簾分けはそれからだと聞いたことがあります。
江戸時代のころから、フランシスコザビエルをはじめ色々な外国人が来られているけど、良きも悪しきもありますが日本は、礼節・勤勉・名誉を重んじる等など、平均的評価の高い国だったはずなんです。

ラザニ
今の40代までの若い人達に、夢は何かと私はよく聞くのですが、無いんですよ。あなたは満足していますかという質問にも、ほぼNOです。 だから、自分の価値観もないし、自分の存在感もない、自分が死んだらどうなるかということも解らない。生きても死んでも同じじゃないかという事になる。

今、日本の自殺率は世界一ですよ。そんな国ではいけない。でも、そんな人がどんどん増えている。 欧米型の文化は日本には合わないです。日本は日本なりの文化があるから。その文化に基づけば絶対、元に戻ると思うんです。

20代30代の若い人たちは、もうみんな気づいてるんですよ。みんな戻りたいんだけど、どこをどうすれば解決できるかみんな解らないだけです。 だから評論家ではなくて、木原先生のような指導者が必要なんです。具体的な道を示して提言できる人が。

木原
恐縮です。しかし、先生のように外から色々指摘していただくと、判らなくなっている是々非々も見えてくるという点で、非常にありがたいです。 それからもう1つ、先生は農業関連に関しては、博士学位をとられていますが、「食」というものは、ものすごく大事ではないかと思うんですが。

ラザニ
そうですよ。そして農業に携わる人達も、今一生懸命無農薬とか間違いなくやっているんですよ。 国内、国産のものをもっと大事にしてもっと応援して、作る事が大切ではないかと思っています。

問題は、消費者の方です。情報はたくさん知っていますが、物のありがたさ、価値観のわからない人達が多いです。無農薬・無添加で形の悪いものは見た目も悪い。 本当に良いものと形を良くする為に農薬を使ったものと、食の安全性と消費者の望む見た目のきれいさには大きなギャップがあります。 日本の作り手は素晴らしいですよ。野菜も果物もレベルが高いです。安全性だけを追究すれば、近い将来、理想的な食べ物が出てきますよ。

しかし、消費者も最近は変わりつつあります。食に関しては政治的な問題もありますが、一時期中国産の安いものが出回りましたが、今は安ければ良いということではないということに気づきはじめています。悪い物は自然に消えてしまいます。信頼がなくなるとそれを回復するには20年かかるでしょう。全部でなくても一部の情報でもマスコミが問題を取り出すと、国民もわかって手を出さない。

木原
はい、仰るとおりに変わってきていますね。 食の話は、これからもいろいろな角度でご教授頂ければ非常にありがたいですね。話は尽きませんが、先生の博学を大いに発揮してお力添え頂きたく存じます。

ラザニ
出来ることがあれば喜んで。私はこの国に骨を埋めたいんです。日本が良くなれば、自分のためにもなるんです。 日本が良くならないと私も困ります。私たち外国人は誇りを持って日本に居るんですよ。

私は日本にいて、この国は世界一ですよと宣伝するんですが、日本人はどうかというと、ほとんどないんです。もっと日本という国に誇りを持って欲しいですね。

木原
心強い言葉をありがとうございます。 また、本日はお忙しいところありがとうございました。